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五感を育む味覚教育

 目、鼻、舌、手という器官を使い、見た目、香り、味わい、触感を通し、食べて言語に置きかえていく「味覚のワークショップ」は、実際に試みてみると、実に面白い。食を通して、子供の内の未知の官能を引き出し、豊かな個性の育みにつながるからだ。

 言語化していく作業は、もっともスリリングだ。個性と語彙と主張を広げていく。大人たちでさえ、言い表せない豊かな感性で、驚くような表現をしてくれることがある。微細な音や香りを鋭く見出す子供たちもいる。

 味覚を通し、子供たちのパーソナルと、成長をうながす力があると知ったのは、フランスで教諭向けの授業を受けてからだった。

 カリキュラムには、「食物を味わうとき、五感を働かせることを意識させる」「口で表現するために語彙を豊かにする」「匂いによって思い出が引き出されることを意識する」「視覚の語彙を明確にする(色、形、外見)」「触ることが重要であることを認識する」などなど、五感を通して、感性や言葉や主張を育むための、じつに細やかなプログラムが組み込まれていた。

 試してみると、ふだん気付かない、自分のなかに眠っている、食を通し、さまざまな経験や思い出などがたくさん眠っていることを見出し、もっと上手な言葉がみつからないかと探している自分を発見したりしている。

 この講義が面白かったのは、ただ食べるというだけではなく、感性が鋭敏になったところで、好きな食で、そのものを直接ではなく、間接的にポエムで表現をしたり、絵画をみて視覚から、今度は味覚の表現で学んだ語彙を駆使して表したりと、五感から無限の感性と表現法の広がりがあると知ったことだ。

 山形県は、県、大学、高校、料理家、農家などが連携し、食文化から料理まで、調査し表現をするという土台を作ってきたところだ。そんなところで育っていく子供たちは、個性豊かに成長をしていくことだろう。(食環境ジャーナリスト・金丸弘美)

フランスでの教員向けの授業の様子

金丸弘美(かなまる ひろみ)

食環境ジャーナリスト

 

全国900箇所を訪ねた各地の具体的事例を基に、食の安全、食からの観光、食の自給率の向上、農業の活性化、食育など、食による地域づくりの新しい形を提唱。また、食材のテキスト化から、横断組織で料理までを展開する食のワークショップで、食育と地域ブランドの連携を実践している。

 

■著書『実践! 田舎力―小さくても経済が回る5つの方法 』(NHK出版新書)

   『幸福な田舎のつくりかた―地域の誇りが人をつなぎ、小さな経済を動かす』(学芸出版社)

   『地域ブランドを引き出す力―ト-タルマネジメントが田舎を変える!』(合同出版)

   『「地元」の力 地域力創造7つの法則』(NTT出版)

   『田舎力―ヒト・夢・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)

   『給食で育つ賢い子ども』(ソトコト新書)

   『創造的な食育ワークショップ』(岩波書店)

   『ゆらしぃ島のスローライフ』(学習研究社)

   共著『スローフード・マニフェスト』(木楽舎) など多数

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